東京高等裁判所 昭和43年(ラ)557号 決定
本件訴状および昭和四三年七月一一日付準備書面には、請求原因に該当する事実が記載されているから、その趣意が明らかでなく、請求の特定ができないことを理由として訴状の記載要件である「請求原因」の記載がないものとして訴状を却下することは許されない。のみならず、
本件訴状および抗告人提出の準備書面記載の請求原因は、これを精読しても難解を極めその意を捕捉するに苦しまざるをえないけれども、要するに、抗告人の両側内耳性難聴(突発性難聴)の疾病は、さく岩機による強烈な機音によつて惹起されたものであつて、業務上の疾病に該当し、労働基準法による災害補償として療養および休業補償費の支給を受けうるものであるにかかわらず、本件被告たる労働基準監督署長および労働基準監督局長らは抗告人の難聴は梅毒性内耳炎によるものである旨虚構の事実を理由として、右の災害補償不支給の決定をしたのであつて、右は同被告らの共同不法行為となるものであるから、抗告人はこれによつて被つた損害の賠償を請求するというにあると解せられないことはない。とすれば、抗告人の本訴請求原因がその理由があるかどうかは格別、特定していないことを理由として訴状を却下することはできないものといわなければならない。その趣旨の不明な個所は宜しく釈明権の行使によつてこれを明白ならしめ、しかもなおその意不明のときは、抗告人の請求を理由なしとしてこれを棄却すれば足りるのである。
よつて、抗告人の本件請求原因を特定することができないから適法な請求原因の記載がないものとして本件訴状を却下した原命令を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すべきものとし、主文のとおり決定する。
(長谷部 鈴木信 岡田辰)